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STUDIO FNCの仕事の裏側を公開

text by RYUNOSUKE AOTA
photo by RYUNOSUKE AOTA / MAO TOMITA
article up 2019/06/30

大阪の南の方、和泉市でアートガッシュを巡る

VOL.13「ART GUSH IZUMI CITY」

大阪府和泉市というところ。和泉市久保惣記念美術館があり、所蔵品はおよそ10000点以上。〝久保惣〟というのは会社名で、明治時代から100年以上、綿業を営んでいた会社だったそうです。そして、昭和52年廃業の際に、和泉市へと寄贈され、今もなお多くの作品を展示している美術館があります。そして、その収蔵品の中に多くの有名な作品もあり、葛飾北斎や歌川広重などの版画作品はもちろん、宮本武蔵が描いたとされる「枯木鳴鵙図」など、美術の教科書などで一度は見たことある作品も数多くあります。その作品たちを美術館だけではなく、街中へもっと広く〝魅せていく〟そんなプロジェクトがART GUSH(アートガッシュ)です。収蔵品を元に生まれた30作品のパブリック・クリエイション。泉北高速鉄道和泉中央駅から久保惣記念美術館までのおよそ2kmの道中、様々なところで見つけることが出来る作品の数々。

そんな素敵な〝こと〟を企画した方々とご縁あって、ゆっくりと解説してもらいながら散策する機会があり、大阪に出張してまいりました。泉北高速鉄道という南海電車に乗り入れている路線からの終点が和泉中央駅。同じ読み仮名〝いずみちゅうおう〟といえば、仙台市営地下鉄南北線の泉中央駅もあり、しかもそちらも終点の駅。鉄道マニアとしては、なんとなく、シンパシーを感じながら、南海なんば駅からは準急で30分ほど。5月下旬とは思えない異常な暑さの中、和泉中央駅に到着。

下車すると、心地よい風はあるものの、日差しは超攻撃的な暑さ。暑さと夏が大嫌いな私にとって、これは、体力とテンションが心配だ。。。と思いつつ、集合時間。いよいよ、始まったわけであります。

スタート地点は、駅から少しあるいた場所にあるエコール・いずみアムゼモールという大きなショッピングセンターの壁面。そこに現れたのが、歌川広重東海道五十三次を基にした作品。もともとの黄色い壁に見事にマッチしており、印象として生き生きとした雰囲気が伝わってくる作品。これからアートガッシュを巡る散策が始めるぞーとそのスタートを飾ってくれるような作品で、とても印象深いものでした。

そこから進んでいくと、印象的な建物。オシャレな図書館も併設した和泉市の和泉シティプラザ。そこにも多くの作品があり、みなそれぞれに個性を持たせた作品が多く見ることが出来ました。

多くの作品が、遠くからでも見ることが出来る場所にあったり、橋の下側にあるものもあったり、更には、貯水池を海に見立てて元の絵の意味合いと合わせてみたり、橋の上では弁慶と義経の三条大橋の情景が描かれていたりと、一つ一つに意味がきちんとある点も非常に面白かったです。

また、地域を結ぶトンネルの中にある作品で、地元の子ども達が参加した作品。青銅器や陶磁器を子供達の目線で描いてもらい、それをトンネル内のタイルに合わせて展示しているもの。子供達の純粋な目線から見る作品が素晴らしく、それもまた見応えのあるものでした。このトンネルには、もともと、落書きがあり、その落書きをまず消し綺麗にした上で、作品の展示を行ったそうです。その後、実は1度落書きがあったとのことで、心ない人もいるもんだと話しを聞き進めていくと、その落書きは、普通の落書きではなく、きちんとそのタイルに合わせた形で描かれていたそうで、一見、作品の一部になりかけていたと言います。おそらく、それをした人も、この作品に参加してみたかったのだろうと。残念ながら、行政の管轄のため、その作品は消されてしまうのですが、その話を聞いた時、アート作品というものは、純粋にそういうところから生まれてくるのかもとも思いました。自己表現がアート作品であるならば、よくある街中のスプレーによる落書きも作品になるわけで、それをどういう形で人が捉えるかによってアートの価値観は変わってくるものだと思いました。

街中にこうした作品が溢れ、日常生活の中に溶け込んでいる。15年ほど前に、修学旅行で訪れた新潟県十日町市にあるほくほく線まつだい駅周辺。国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というイベントが3年に1度開催されており、建物や里山、水田、畑などの風景の中に、アート作品が展示されており、それを会期終了後も常時見ることが出来るのです。アート巡りをしながら、その町の雰囲気なども味わうことが出来る。その点で、今回のアートガッシュも方向性は似ているなと感じました。どちらも、そのイベント・企画をきっかけに、多くの方々に街に足を運んでもらい、街のことも知ってもらう。これも一つの地域活性化事業の一つになるのだと感じました。

そして、作ったら作りっぱなしというわけではなく、定期的にツアーを組んだり、イベントを実施することで、その内容をきちんと周知していく取り組み。こうした企画の場合、ただ作って終わりではなく、その企画を継続していくことが重要。その課題をどうやってクリアにしていくかが、結構難しいものです。

このような完成されている街中の様々なところへ掲出していくことも、景観条例や、様々な団体企業の協力なくしては完成することは出来ないはずです。それをもクリアして、こうして実現できたことも素晴らしく、また羨ましいとも思いました。

ただ、関連したイベントを実施する場合、トークショーなどにしてしまうと、どうしてもそのものに興味を持っている方々しか集まらないという弊害もあります。もっと幅広く集客するためにはどうするかという部分も今後の課題になってくるのかなと思います。

このような事業を実施したいと思っても、その事業自体に関してまず、理解してもらえない限り、実現することも難しいのものです。そして、中途半端ではなく、大胆にやり切れるかどうかも重要なポイント。それがうまく融合しなければこうした壮大な企画は完成出来ないと思います。

それを実現させたこのアートガッシュは、本当に素晴らしくそして、一つ一つの作品に刺激をもらえるものでした。とっても良い機会をいただけたことに感謝すると共に、また一つヒントをもらえるきっかけにもなった今回の旅。

ぜひ、皆様も関西・大阪方面に行く機会があれば、一度は見に行くことをオススメします。

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